コンパクトで新しいELACは音のメリハリがよく使い勝手も向上

ELAC BS72
ELAC BS72

ELAC BS72 音質レビュー

付き合いやすいELACになった

これまでELACと言えば、そのツイーターに特徴があり、高域の美しく叙情的な表現力にこだわりのあるユーザーが愛好してきたメーカーでした。「北欧ジャズやプログレを堪能したいから、その静謐な世界に耽溺できる唯一の選択肢としてELACを選ぶ」というような選択にも、説得力がありました。


今回のBS72は、こうしたかつてのELACのイメージとはかなり異なる立ち位置のスピーカーになっています。サイズの割りに低音がよく出て、一言でいえば「元気がある」音がします。

かつてのELACは、セッティングで低音をタイトに引き締めることで高域の魅力を存分に発揮させていましたが、新しく、また小さいBS72では、素直に元気よく出てくる低音も魅力のひとつになっています。

今回の試聴では、チック・コリアの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』と『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』を30分ほど、交互に少しずつ聴いてみましたが、最終的には、流麗で空間的な広がりを感じさせる前者の世界よりも、ノリのいい後者のほうにより気持ちを持っていかれる結果となりました。

またそのなかでも、華麗なフレーズを繰り出すペッパー以上に、リズム隊の姿が目に浮かぶような楽しさがあり、まるでモニターオーディオでも聴いてきたかと感じるほどです。聴きながら「こんなふうにピアノがバッキングしていたのか」とサックスとピアノのユニゾンを新鮮に感じたり、試聴して数日してからも『BIRKS WORKS』の特徴的なメロディー(リフ?)が脳裏に甦ってきます。事前に「この大きさでどれくらいELACらしさを出せているのだろう…」と予想していた感じとは多少違った印象を受けましたが、案外楽しく聴かせるスピーカーで、これはこれで好印象です。


楽しくメリハリのある音質

クラシックの古い録音をゆったり聴きたい人や、音楽にほっとするような暖かみを求める向きにはまた別の選択肢があると思いますので、万能型とまでは言うつもりはありませんが、BS72が同価格帯の中でこれまでモニターオーディオを選んでいたような人たちにも受け入れられ、また比較対象になると思えるスピーカーであることは間違いありません。おそらく最も万人受けするELACといっていいのではないでしょうか。

様々な特長を持つスピーカーがある中で、BS72は音のメリハリと綺麗に伸びる高域を美点として持つスピーカーです。中庸でクリアなすっきりした音が出て、高域のシャリ感は少な目、ONKYOよりキラキラ感が控えめというようなイメージで伝わるでしょうか。楽しく小気味のいい音の出かたを重視するなら、試聴機種に加えることをおすすめします。

例えば、硬質なタッチのピアニストが弾くピアノソナタを聴きたいなら、まずこのBS72を最初におすすめします。高音の抜けがいいですし、一般的に音のキレのいいスピーカーは、ソフトタッチのピアノ演奏も表現することができます。逆に音の柔らかいスピーカーで硬質な演奏を聴く場合には、多少のもどかしさを感じることがあります。

メタルを聴きたいならBS72のほかに、FOSTEXのいくつかの機種を試聴してみましょう。絶対的な迫力や超速ドラムの解像感ではFOSTEXに分があるでしょうが、BS72も決して悪くない。小さいながらもノリノリで聴かせてくれると思います。

ロック系やストレートアヘッドなジャズであれば、BS72とFOSTEXに音がまっすぐ飛んでくるモニターオーディオも交えて試聴してみると、そのなかから気に入る機種が見つかるはずです。


先入観なしで聴いてみたいBS72

BS72は、BS310のような上位機種・旧機種と比べ、「この高域の音場感に包まれたいからELACでなくてはならない」という側面は薄れています。陰と陽でいえば「陽」がより強まり、音場型と音像型の両側面を兼ね備えている上位機種からはっきりと音像型にシフトしていて、よりカジュアルに他社のスピーカーと比較できる機種です。

BS72は、見た目でも音質でもオーラのようなものはほとんどないけれど、その代わりに「普通のコンパクトスピーカー」としてのまとまりを高いレベルで獲得したと言えます。「ELACはなんとなくクールっぽくて難しそう」という先入観を抱かずに試聴してみてください。案外「普通にいい」ですよ。


小さい、そして薄い

またBS72は、奥行きの深い形状のスピーカーが多かったELACにしては、奥行き16cmとリアバスレフにも気を使わずに済むサイズ。デスクトップでの使い勝手も向上していることも魅力のひとつとなっています。



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